アーティストインタビュー
ヴィオラの神秘性を感じる時間に
今回はヴィオラの魅力を伝える新シリーズ「ヴィオラ・コレクション」の始動ということで楽しみです。
世界的に見てもヴィオラに焦点を当てた企画はなかなか見当たりません。しかも第1回目はヴィオラのみでの演奏ということですから、純度の高いステージになると思います。
ヴァイオリンから始めて、ヴィオラに転向する人が多いように感じますが、実際はどうなのでしょうか?
子ども用ヴィオラというものがないので、ほとんどがヴァイオリンからスタートしています。僕もそうでした。中学生のときに本気でヴァイオリンを学びたいと思っていたら、なぜか近所の自転車屋のおじさんが、先生を紹介してくれたんです。その方が、ヴィオラ奏者の名手である店村眞積先生でした。店村先生のヴィオラを聴いて弾いてみたいと思いましたが、ヴィオラが本当にうまくなるためには、ヴァイオリンをもっと勉強してから、と言われてヴィオラはおあずけになりました。やっと弾かせてもらえたのが、何年も後のことなので、音大にはヴァイオリンで入学し、ヴィオラで卒業しているんです。
そうだったのですね。それほどヴィオラに夢中になられた理由とは?
ヴィオラという楽器自体に不思議な魅力を感じているからです。実は、最初にできた弦楽器はヴィオラ。そこから大きさを変えて弦をピンと張ったのがヴァイオリンやチェロですが、ヴィオラは最初から弦の張りが少し緩いんです。少しこすっただけでも浸透率の高い遠くまで通る音が出る、いわば鍛え上げられた肉体を持っているのがヴィオリンやチェロ。それに対して、弦の張りが緩く淡くぼやけている、ぷよぷよっとした感じがヴィオラ。そこに、昼と夜の間、男と女の間、善と悪の間のように、あらゆる「あいだ」の世界、グレーゾンという曖昧さを持つ神秘性を感じます。
ヴィオラの音色が渋いのは、その緩さや曖昧さからきているのですね。
そうなんです。しかも、製作者によって大きさも異なります。ヴァイオリンの大きさはほぼ均一ですが、ヴィオラは38〜48㎝くらいまで幅があり、同じ楽器とは思えないほど一台一台、音色も違います。明るい音色、暗い音色、艶っぽい音色、艶消しのようなダークサウンドの音色など個体差はさまざまですが、中性的な全部を包み込んでしまうような神秘性はどのサイズの楽器にも必ず共通しています。
そういう意味でも、ヴィオラだけのアンサンブルというのは、とても稀有ですね。
はい。個体差が大きいのでヴィオラ四重奏の音を聞いた人たちは、皆さん驚かれます。想像していたよりずっと色彩豊かなので、最高にクールという人もいれば、今までに経験したことのないような不思議な感動をする人など、面白い反応が起きたりします。
非常に珍しい組み合わせだけに、オリジナル曲は少ないですね。
ヴィオラ四重奏の曲はなかなか探せませんが、今回演奏するブリッジの「2つのヴィオラのためのラメント」はオリジナル曲です。
一緒に演奏する安達真理さん、中恵菜さん、山本周さんとは以前からのお知り合いですか?
3人とも、2021年に僕が日本に帰ってきてから知り合った方たちです。中さんとは一度演奏会でご一緒したことがありますが、皆さんとどんな化学反応が起こるか楽しみです。
この演奏会で伝えたいことはありますか?
ヴィオラのアンサンブルで聴くことができる独特な間(あいだ)の世界観が会場を満たして、物事の大きな原点に立ち返るような特別な音楽体験ができる演奏会になると思っています。
ありがとうございます。当日を楽しみにしています。
健康になるために特にしていることはありませんが、強いていえば、ヴィオラを弾けば弾くほど体の調子が良くなることをイメージして演奏していることです。
世の中には音楽の持つ働きで心身のケアを行う「音楽療法」というものもあるように、自分の弾く音を聴いて心地よくなれたら、細胞も活性化して体もほぐれていくと思うのです。演奏していることが気持ちいい循環を作れたら、それが一番の健康法になるのではないでしょうか。ただ仕事のために何かをするのではなく、常に自分の根っこから納得できる音を出す、その積み重ねが健康に寄与すると考えています。