原支配人による公演レビュー

2022年04月01日 (金)
【原支配人による公演レビュー】
2022年3月11日(金) 原田英代 ピアノ・リサイタル 第5回 <光>

ベルリン在住の名ピアニスト、原田英代さんによる全5回シリーズの最終回でした。新型コロナウイルス感染症の影響により第4回が延期となったため、足掛け6年に及びました。このシリーズの前に「ワンダフル one アワー」という1時間2公演のシリーズにご出演いただきましたが、、このシリーズでは殆どあり得なかった600席完売という快挙を成し遂げて下さった原田英代さん、ドイツ、ロシアに対する音楽の造詣が深すぎるという事と、ピアノ演奏に対する技術的伝承力も素晴らしいという事で、必ずリサイタルと事前のレクチャーをセットで続けて来ました。昨年からはレクチャーをハクジュホールで行わずに朝日カルチャーセンター新宿教室で行うという、新しい試みもさせて貰いました。
第2回のレクチャーでは、私がインタビュアーになるという経験もさせて頂きました。事前打ち合わせがあまりなく、どのようなお話をしますか?と原田さんに確認したら「ドイツ音楽とロシア音楽は違うという事を引き出してくれたら良いです」と言われ、焦ってピョードル大帝の事などを調べました。サンクトペテルブルクは大帝と同名の聖人ペテロの名前、即ち聖ペテロが住む街。ブルクはドイツ語で城塞都市を意味するとか、チャイコフスキーが1865年にモスクワ音楽院の教壇に立ってからロシア音楽と西洋音楽が共生し始めた、ロマノフ王朝が崩れたのは1917年ですのでそこからはソ連音楽。実はロシア音楽が西洋の中で交わったのはほんの半世紀だったのか。というような知識を得る事が出来ました。また「Hakuju ギター・フェスタ」で南米やスペインの音楽を何も知らず衝撃を受けたのを超えるほど、自分はクラシックが詳しいという思い込みに気づかされた出会いでもありました。このように原田さんのおかげでその後のハクジュホール主催公演の企画の幅が大きく広がり、原田さんとの出会いはハクジュホールの運命をも変えたと思っています。
ドイツ音楽とロシア音楽による「人生ドラマ」の最終回、テーマは<光>。世界が一刻も早く闇から抜け出し、光の中に入っていくという願いが込められたテーマでした。レクチャーでベートーヴェンとシューベルトの違い、ラフマニノフとスクリャービンの違い、ロシアの生活と離れる事がない教会の鐘の存在についてお聞きし、曲の聴こえ方が変わりました。最終回に相応わしい素晴らしい演奏でした。
原田さんとのお付き合いが始まってからおよそ8年になりますが、来日される毎に彼女の人生の色々な出来事をお聞かせ頂いたので、共に歩んで来た気持ちが大きいです。羽田発の深夜便でお帰りになるときに名残惜しい旨メールで頂戴し、私も同じ気持ちで、永遠の別れではありませんがとても寂しい気持ちが起き、今も続いております。
原田さん、長い間お世話になりました。またご縁が出来ますよう頑張ります。

2022年3月11日(金) 原田英代 ピアノ・リサイタル 第5回 <光> 19:00開演
[出演]
原田英代(ピアノ)

[プログラム]
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D.960
ラフマニノフ:
「13の前奏曲」 op.32 より 第10番 ロ短調
 「10の前奏曲」 op.23 より 第4番 ニ長調
絵画的練習曲「音の絵」 op.39 より 第7番 ハ短調
「楽興の時」 op.16 より 第6番 ハ長調
スクリャービン:
 「12の練習曲」 op.8 より 第11番 変ロ短調
ピアノ・ソナタ 第5番 嬰ヘ長調 op.53

[アンコール]
チャイコフスキー:組曲「四季」 op.37b より “10月 秋の歌”
シューベルト:「4つの即興曲」より 第3番 変ト長調 op.90-3