原支配人による公演レビュー

2023年10月13日 (金)

【原支配人による公演レビュー】
2023年9月13日(水) 渡辺玲子 プロデュース レクチャーコンサート vol.8 知る、聴く、喜び ~時代を彩る名曲とともに~ パガニーニ、そしてシューマン

渡辺玲子さん、江口玲さんによるレクチャーコンサートの8回目でした。当初はヴァイオリン・ソナタを中心に取り上げる方針でしたが、ヴァイオリンとピアノのソナタのみですと選択肢が狭まるため、昨年から少し方向転換をしています。昨年はアメリカに縁のあった音楽家として、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ラフマニノフ、クライスラー、ラヴェル、ガーシュウィン、コルンゴルドと様々な作曲家の名前が挙がりました。第一次世界大戦がいかに多くの音楽家の人生に影響を与えたのか、そしてクライスラーとラフマニノフ、ラヴェルとガーシュウィンの関係など、とても勉強になるコンサートでした。
今年の軸はパガニーニとシューマンです。1830年に20歳のシューマンはパガニーニの「ヴァイオリン協奏曲」を聴いて大きな感銘を受け、同年母のヨハンナに宛てた手紙に「僕の今までの人生は、詩と散文との間であがいてきた苦しみの20年間でした。(中略)僕はいま、人生の岐路に立ち、どの道を選ぶべきかという問題に直面して、怯えています。そして、僕の芸術に向かおうとする資質が正しい道なのではないかと考えてしまうのです」と書いています。そこまで大きな影響を受けたシューマンは、晩年に病床でパガニーニの「24のカプリース」にピアノ伴奏の編曲をつけたり、ピアノ練習曲を編曲したりしていたということを今回知る事が出来ました。パガニーニ作曲(シューマン編曲)の「24のカプリース」の他に演奏されたのは、「カンタービレ」とクライスラー編曲の「ヴァイオリン協奏曲 第1番」より第1楽章。悪魔に魂を売ったのではと言われるほどの天才であったパガニーニによる甘美なメロディーと、超絶技巧を要するパッセージが特徴的でした。パガニーニの存在はショパンやリストにも影響を与え、リストはピアノの領域でパガニーニを目指すべく超絶技巧の作曲をしたとも言われているそうで、江口さんのソロでシューマンの「パガニーニのカプリースによる6つの練習曲」より2曲と、リストの「ラ・カンパネラ」が演奏されました。そしてプログラムの最後は、シューマンが人生の後半、1853年に2人の天才、作曲家・ピアニストのブラームスとヴァイオリニストのヨアヒムと出会い、最晩年にヨアヒムに献呈した「幻想曲」でした。
シューマンは1810年に生まれて1856年没。フランクフルト、ライプツィヒ、ドレスデン、デュッセルドルフと、色々なところに住みながらロマン派前期といえる時期のたくさんの有名な音楽家と影響し合いながら生きたということで、再度違うテーマで取り上げても良い作曲家ではないかと今回のレクチャーを聴いて知見が広まりました。

2023年9月13日(水) 渡辺玲子 プロデュース レクチャーコンサート vol.8 知る、聴く、喜び ~時代を彩る名曲とともに~ パガニーニ、そしてシューマン 19:00開演

[出演]
渡辺玲子(ヴァイオリン) 江口玲(ピアノ)

[プログラム]
N.パガニーニ:カンタービレ ニ長調 op.17
N.パガニーニ(R.シューマン編):「24のカプリース」 op.1 より
第3番 ホ短調、第6番 ト短調、第9番 ホ長調、第17番 変ホ長調、第21番 イ長調
R.シューマン:「パガニーニのカプリースによる6つの練習曲」 op.3 より <ピアノ・ソロ>
F.リスト:「パガニーニによる超絶技巧練習曲集」 S.140/R3a より 第3番 変イ短調       “ラ・カンパネラ” <ピアノ・ソロ>
N.パガニーニ(F.クライスラー編):ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 op.6 より 第1楽章
R.シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 op.105
R.シューマン:幻想曲 ハ長調 op.131

#渡辺玲子 #江口玲
#HakujuHall #ハクジュホール

画像ギャラリー