原支配人による公演レビュー

2024年01月25日 (木)

【原支配人による公演レビュー】

2024年1月13日(土) ~14日(日) Hakuju 邦楽フェスタ 2024

以前より、日本におけるクラシック音楽に広がりが出ていかないのがもったいないと思っていました。例えばアメリカのカーネギーホールでワールドミュージックの演奏会を開催しているように、ハクジュホール21年目のイノベーションとして固定観念をなくしジャンルレスなコンサートを開催したいと考えましたが、アイディアベースで頓挫することが多くありました。そんな中、和楽と西洋音楽を掛け合わせた作品を多く手がけている世界的作曲家・藤倉大さんを通じて三味線 本條流の方々と繋がることが出来たので、昨年初頭から話し合いを重ね、2日間・3公演の「邦楽フェスタ」を開催する事になりました。今年最初の主催公演です。

1、日本の伝統音楽をクラシックホールで行う
2、和洋折衷の世界初演の委嘱を行う
3、オペラ歌手が日本のうたを歌う

という大きな柱を決めたところ、世界初演は尺八に似たフルートではなくオーボエと三味線で、作曲は色々とお世話になっている加藤昌則さんに委嘱しよう、オーボエは新進気鋭の荒木奏美さんにお願いしよう、歌は日本音楽に興味を持っていらっしゃる林美智子さんにお願いしようと、骨子がどんどん決まって行きました。そしてプログラムを本條秀太郎先生にご考案いただきました。

一. 「序」 ~これぞ伝統の真髄・真骨頂!日本伝統音楽の名手による古典と現在
本條秀太郎 ― 白眉no音空間 ― 回帰する傳燈のいま

現代に生まれた伝統的三味線音楽の楽派である俚奏楽と、秀太郎先生が抜粋した江戸時代からの端歌を11曲。秀太郎先生のお歌は全てマイクなしの生音で、曲目解説をされる際にピンマイクを使用されました。後半は現代端歌という、昔の俳句やお話を現代風の演奏に切り替えた、曲目解説ではアバンギャルドとも表現される曲の演奏でした。鳥の子屏風を舞台に置き、秀太郎さん、秀慈郎さん、秀英二さんが和服姿で三味線と胡弓を演奏されました。手前味噌ですが、生粋のクラシックホールがマイクなしの生音でこのようなコンサートを開催できた事は画期的ではないかと思いました。

二. 「破」 ~越境する音楽 日本音楽と西洋音楽の姿
クロスロード ― 演奏家の肖像 ―

荒木奏美さんによるオーボエ独奏、オーボエと三味線、三味線のみの3パターンで構成されたプログラム。オーボエと三味線による演奏は3曲で、1曲は韓国の大琴(テグム)をオーボエに置き換え、1曲は龍笛をオーボエに、そしてもう1曲はオーボエと三味線のための世界初演です。作曲を委嘱した加藤昌則さんは、オーボエと三味線という編成に初挑戦だったとのことです。その他、荒木さんのソロでは秀太郎先生のリクエストでH.ホリガーの「StudieⅡ」が演奏されました。また、オーボエという西洋楽器が加わったので、オーボエ独奏と三味線アンサンブルでバッハの作品が演奏されました。

三. 「急」 ~三味線で歌われる童謡/唱歌・端唄 復活する日本の風景
うたの歩み ―“convert” こころの形

林美智子さんと、ゲストにチェリスト森田啓介さんを呼んでのコンサート。いきなりオペラ歌手の林さんが本條流の端唄を低音で歌われたのはとてもチャレンジングな事だったと思いますが、とても耳馴染みが良く、独特の調子や掛け声に笑顔がこぼれました。そして地元でも歌われなくなってしまっている小さな労働歌、童謡、唱歌の数々を味わいました。後半は森田さんのソロによるカサドの「無伴奏チェロ組曲」に続き、パブロ・カザルスによって世に出たカタロニア民謡「鳥の歌」を歌、三味線、チェロで演奏。最後は宮沢賢治作詞の「星めぐりの歌」、そして民謡で幕を閉じました。
ご来場いただくと曲目解説もあり、コンサートの主旨が伝わりお楽しみいただけたと思いますが、とても凝っておりエッジの効いた企画のため、お客様に興味を持っていただくのが難しく集客は厳しいところがありました。しかしながら、クラシックホールで純度100%の和楽が演奏され、日本音楽と西洋音楽の折衷があり、オペラ歌手が日本の伝統的な楽曲を歌うコンサートを行うことができ、その中でジャンルの違う方同士がお互いにインスパイアされていると強く感じることが出来たのは最高の収穫となりました。出演者の方からも、「本物の、抜きん出た方の世界観をハクジュの舞台でコツコツと表現し続けてもらいたいです」というお言葉を頂戴し、筆舌に尽くしがたい何かを得て、本当にかけがえのないものをお客様にお届けできたと感じました。大変なご準備をされた出演者の皆様、世界初演作品を作曲してくださった加藤昌則さんに心より感謝を申し上げます。


2024年1月13日(土) ~14日(日) Hakuju 邦楽フェスタ 2024
1月13日(土)13:00開演
一. 「序」 ~これぞ伝統の真髄・真骨頂!日本伝統音楽の名手による古典と現在
本條秀太郎 ― 白眉no音空間 ― 回帰する傳燈のいま
[出演] 
本條秀太郎(唄、三味線)
本條秀慈郎、本條秀英二(以上、三味線、胡弓)

[プログラム]
【俚奏楽】
本條秀太郎(詞:秋元松代):露のいのち
【端唄】
春風
三下りさわぎ
都々逸
とっちりとん
二上がり新内
酒の座敷
しんの夜中
萩のしおり戸
我がもの
玉川
露は尾花
【現代端唄】
本條秀太郎(詞:寺山修司):秋風
本條秀太郎(詞:寺山修司):与謝野晶子
本條秀太郎(詞:寺山修司):偏愛
【結び】
夜の雨

1月13日(土)17:00開演
二. 「破」 ~越境する音楽 日本音楽と西洋音楽の姿
クロスロード ― 演奏家の肖像 ―
[出演] 
荒木奏美(オーボエ)
本條秀太郎(唄、三味線)
本條秀慈郎、本條秀英二(以上、三味線、胡弓)

[プログラム]
高田新司:傳心 (2016) 〈荒木奏美・本條秀太郎〉
H.ホリガー:StudieⅡ 〈荒木奏美〉
G.クルターグ:遠くからウルスラへの手紙 〈荒木奏美〉
本條秀太郎(詞:寺山修司):現代神楽スサノヲ頌歌より「手紙」 (2015)  〈本條秀太郎・本條秀慈郎・本條秀英二〉
本條秀太郎:歌垣 (1990) 〈本條秀太郎〉
J.S.バッハ:パルティータ イ短調 BWV 1013 より 第1楽章 “アルマンド” 〈荒木奏美〉
加藤昌則:二奏一重 (Hakuju 邦楽フェスタ 2024 委嘱作品/世界初演) 〈荒木奏美・本條秀慈郎・本條秀英二〉
J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」より “謎のカノン” 〈本條秀太郎・本條秀慈郎・本條秀英二〉
本條秀太郎:雪炎浄土 (1991) 〈荒木奏美・本條秀太郎・本條秀慈郎・本條秀英二〉

1月14日(日)14:00開演
三. 「急」 ~三味線で歌われる童謡/唱歌・端唄 復活する日本の風景
うたの歩み ―“convert” こころの形
[出演] 
林美智子(メゾ・ソプラノ)
本條秀太郎(三味線)
本條秀慈郎(三味線)
本條秀英二(三味線、胡弓)
ゲスト:森田啓介(チェロ)
採譜・編曲:本條秀太郎

[プログラム]
【端唄】
夜の雨 〈林美智子〉
品川甚句 〈林美智子〉
【小さな労働歌】
神奈川の子守唄:小坪いかとり唄 〈林美智子〉
種子島の子守唄:ヨウカイ 〈林美智子・森田啓介〉
【童謡・唱歌】
山田耕筰(詞:北原白秋):からたちの花 〈林美智子〉
藤井清水(詞:野口雨情):おかよ 〈林美智子・本條秀太郎・森田啓介〉
橋本國彦(詞:久保田宵二):富士山見たら 〈林美智子・本條秀太郎・森田啓介〉
中山晋平(詞:野口雨情):証城寺の狸囃子 〈林美智子・本條秀太郎〉
G.カサド:無伴奏チェロ組曲より 第3楽章 〈森田啓介〉
カタロニア民謡(詞:松岡正剛):鳥の歌 〈林美智子・本條秀太郎・森田啓介〉
宮沢賢治(詞:宮沢賢治):星めぐりの歌 〈本條秀太郎〉
青森県民謡:ホーハイ節 〈林美智子・本條秀太郎〉
東京都民謡:八丈米搗唄 〈林美智子・本條秀太郎〉

<アンコール>
夜の雨

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