原支配人による公演レビュー
【原支配人による公演レビュー】
2024年9月12日(木)石上真由子&中恵菜&佐藤晴真
このコンサートは実現に至るまで、数々のドラマやその時々で下した忘れられない決断がありました。京都出身者同士で仲が良い中恵菜さんと石上真由子さんから弦楽三重奏をやりたいという相談を受けたのが、事の始まりでした。弦楽四重奏はここのところ公演回数が増えてきていますが、対して弦楽三重奏はコンサートでの演奏機会には余り恵まれていないのが実情です。こういった事実には気づいていたものの、知名度の点で見劣りする弦楽三重奏の公演を主催で行うには、かなりの勇気が必要でした。そんなときに、ある朗読コンサートに遭遇して背中を押されたのです。それは、ホロコースト、アウシュビッツで殺害された音楽家の音楽と有名声優によるホロコーストの朗読コンサートでした。このコンサートではホロコーストにより殺害された作曲家の弦楽三重奏作品を取り上げ、それだけでコンサートが成立し、しかも曲が結構明るいのです。これらの曲が世に出ていくためには、弦楽三重奏が社会的認知を得て、その地位が構築されないといけないと感じました。元々、地名度の低い作品を取り上げるのは、私にとってHakuju Hallの大きなテーマでもあることに改めて思いを致し、実現に向けて動き始めました。石上さんと中さんが相談して、今を時めく若手チェリストの佐藤晴真さんにお声がけいただき、ハクジュホールで合わせをして頂いたところ、3人の音楽的な相性が合うことがわかり、昨年2023年1月に「第169回リクライニング・コンサート」に3名でご出演いただきました。
「リクライニング・コンサート」はシリーズとしてお客様がついていらっしゃいますし、チケットも2,200円とお聴きいただきやすい価格です。加えて石上・中・佐藤の3人の知名度をもってしても全く売れなかったら諦めようと決めて実施したところ、昼夜2公演で324席と手応えを感じたので、弦楽トリオをシリーズ化すると決断しました。トリオ名も決めきれないままに、そこから先の弦楽三重奏をメジャー化する活動はこの3人に後を託し、第1回の内容についても若手3人にお預けしたところ、出てきたのは、ウェーベルン、シューベルト1番、シェーンベルク、ベートーヴェンの1番で、多忙を極める3人がどうやって練習の時間をひねり出すのかというような、重厚なドイツ・ウィーン プログラムでした。そうして、1年半ほどの時を経て今回のコンサートに漕ぎ着けることが出来たのです。
公演はほぼ完売で、最初のウェーベルンで見せた集中力と精緻なアンサンブルで客席のお客様が音楽に引き込まれていくのが、目に見えるように感じられ、演奏者、聴衆双方で集中力を高め合っていくという、ある種異様な雰囲気に包まれる凄い演奏になりました。
シューベルトは食事に例えれば、当夜のプログラムの中では箸休め的な感じで、少し弛緩の時を過ごした後、3曲目のシェーンベルクでは、構想段階の当初に決断した、マイナー楽曲をプログラムに取り入れるというHakuju Hallの想いに対して本気のアウトプットで応えていただき、その心意気に感動した次第です。ご来場いただいた皆様の反応は大変なものでした。新ウィーン楽派作品での集中力、クォリティーに対する反響はある程度は予想していたものの、メインのベートーヴェンに対する賛辞のお声も数多く寄せていただき、演奏者たちも大変喜んでいました。
公演の企画化に私の中で数年を費やしましたが、それ受けて、忙しい合間に相当な時間を使って素晴らしいコンテンツに実らせてくれた若手アーティストの皆さんにこの場で改めて感謝の言葉をお伝えいたします。そして、ご来場いただいた皆様、本稿をお読みいただいている皆様、 2025年にこの企画の第二弾をやりますので、是非ご来場をお待ちしております。
2024年9月12日(木) 19:00 開演
石上真由子&中恵菜&佐藤晴真
[出演]
石上真由子(ヴァイオリン) 中恵菜(ヴィオラ) 佐藤晴真(チェロ)
[曲目]
A.ウェーベルン:弦楽三重奏曲 op.20
F.シューベルト:弦楽三重奏曲 第1番 変ロ長調 D471
A.シェーンベルク:弦楽三重奏曲 op.45
L.v.ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 第1番 変ホ長調 op.3