原支配人による公演レビュー
【原支配人による公演レビュー】
2024年12月3日 (火) 巡礼の旅 ~ 阪田知樹と辿るベートーヴェンとリストの軌跡
第7回 「舞踏の聖化」
ピアニスト阪田知樹さんと始めたリスト編曲のベートーヴェン交響曲チクルス企画、「巡礼の旅」。毎年6月と12月に開催しておりましたが、2024年は4月から6月にホールの改修工事が入ったため、6月の公演を1回休んで1年振りの開催になりました。この企画で一貫して取り上げる楽曲はベートーヴェンの交響曲ですが、企画の中心はあくまでもリストだと考えています。私がリストの楽曲はもっと世に出るべきと考えている時に、フランツ・リスト国際ピアノコンクールで優勝した阪田さんにお話を持ちかけたのが始まりでした。
プログラム構成として、前半はメインとなる交響曲に関連したテーマを持つ曲を阪田さんが毎回考えて下さっています。例えば第6回を見てみますと「交響曲 第6番『田園』」の前半は、巡礼の年 第1年「スイス」からの抜粋でした。シリーズ第2回以降、阪田さんによる事前レクチャーが行われており、プログラム構成の背景などをお話し下さいます。毎回、阪田さんが話し始める時には既に殆どのお客様が着席されていて、この企画に対するお客様の認知、理解の深さが伺え有難く思っています。
第7回のテーマは「舞踏の聖化」。コンサートの前半、2曲はハンガリー出身のリストの舞曲として「2つのポロネーズ」より第2番と「ハンガリー狂詩曲」より第12番。またワーグナーとの関わりに触れ、多数存在するリストによる編曲作品の中から2曲を抜粋したというお話しがありました。「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より“冬の静かな炉端に”の編曲、そして「パルジファル」より“聖杯への厳かな行進”と「リヒャルト・ワーグナーの墓」を演奏。技巧的に大変だと思われる3曲の後に荘厳な2曲が続き、前半は重々しく終了。
後半は、昨今最も有名な「交響曲 第7番」。2楽章は昭和天皇崩御の際に小澤征爾の指揮で葬列を見送った葬送行進曲で重みがある雰囲気でしたが、それ以外の楽章は軽快さを感じました。
本編終了後、阪田さんは「交響曲 第7番」はテクニック的には難易度の高い曲ではないもののピアノ編曲で演奏するには表現が難しいというか、ピアノ演奏には適さない部分があると思う、やはり音が減衰するピアノにとってロングトーンが演奏上難しいという事をお話しされました。また、そのようなことを気にされたのか、お客様にとってご満足いただけるものでしたか?という問い掛けもありました。また更にワーグナーの息子のジークフリートに話が及び、彼はバイロイトのオペラ指揮者で、リヒャルト・ワーグナーのオペラに人生を捧げて振り続けたそうです。そしてアンコールは演奏機会が少ないジークフリート・ワーグナー作曲のオペラから「異教徒の王」ピアノ編曲抜粋で厳かにコンサートは終了しました。
思い起こせば、本シリーズスタート1年前にフランツ・リスト国際ピアノコンクール優勝のお祝いを兼ねて「リクライニング・コンサート」にご出演、満員のお客様の前でラフマニノフプログラムをご披露いただきました。その打ち上げでリストに話が及び、シリーズ開始まで1年をかけたものの、第1回、第2回はコロナで公演が開催できず、その後第7回まで4年かかりました。足掛け6年経過したこの企画は残すところあと1年となります。次回、第8回は2025年6月を予定しています。ベートーヴェンが1番好きだと話していた、そして私も1番好きな「交響曲 第8番」とリストの大曲「ピアノ・ソナタ ロ短調」を演奏予定です。次いで12月には、超難曲「交響曲 第9番」を合唱なしで演奏、前曲はシラーの詩を歌曲にした曲を公開します。9回の公演を経ても、フランツ・リストが書いた全ての曲の2割にも満たないのではないでしょうか。それ程にリストは長生きして多くの作品を残しました。このシリーズが終了しても、「リストの楽曲はもっと世に出るべきだ。」というテーマを模索し続けたいと考えております。
2024年12月3日(火)巡礼の旅 ~ 阪田知樹と辿るベートーヴェンとリストの軌跡
第7回 「舞踏の聖化」
19:00開演(18:45~ 阪田知樹によるプレトーク)
[出演]
阪田知樹(ピアノ)
[プログラム]
F.リスト:2つのポロネーズ S.223/R.44より 第2番 ホ長調
R.ワーグナー/F.リスト:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より “冬の静かな炉端にて” S.448/R.281
F.リスト:「ハンガリー狂詩曲」S.244/R.106より 第12番 嬰ハ短調
R.ワーグナー/F.リスト:歌劇「パルジファル」より “聖杯への厳かな行進” S.450/R.283
F.リスト:リヒャルト・ワーグナーの墓にS.202/R.85
L.v.ベートーヴェン/F.リスト:交響曲 第7番 イ長調 S.464/R.128
[アンコール]
S.ワーグナー(C.キッテル編):歌劇「異教徒の王」op.9 より第一幕の間奏曲「信仰」