原支配人による公演レビュー
【原支配人による公演レビュー】
2025年01月25日(土)仲道郁代 言葉を奏でる vol.1
シューベルト「白鳥の歌」 ~加耒徹を迎えて
仲道郁代さんとご一緒した主催公演は、2016年7月からの「ショパンへの道 ショパン鍵盤ミステリー」(全6回)、2019年7月からの「ベートーヴェンへの道 ベートーヴェン鍵盤の宇宙」(全6回)と二つのシリーズを経て9年目を迎え、今回は「言葉を奏でる」という企画をご提案いただきました。歌曲には言葉があり音楽があります。これらを深く掘り下げて融合させるコンサートがしたいという事で、1回目はバリトンの加耒徹さんをお迎えしました。事前の説明が十分でないと、ただ単に仲道さんが歌曲を取り上げるシリーズに見えてしまうのですが、詩の意味から生まれる音楽的な解釈の解説を交えながらのコンサートです。
曲目はメインがシューベルト「白鳥の歌」。この曲だけでもかなりの熱量を要するのですが、今回は全4曲という構成でした。数多くのシューベルトの歌曲の中でも大変美しい「音楽に寄せて」にはじまり、2曲目はピアノ・ソロ「4つの即興曲」より第3番。シューベルトの代名詞と言って良いロザムンデの緩徐楽章の旋律が入っており、陶然とした世界が広がりました。3曲目はベートーヴェンによる史上初の連作歌曲である「遥かなる恋人に寄せて」。シューベルトはベートーヴェンに強く憧れ、触発されて作品も書いています。その対比として今回ベートーヴェンを入れたそうです。加耒さんは「ベートーヴェンの歌曲は音楽の方向性がしっかりしていて歌いやすく曲に意思を感じられる。比較してシューベルトはシューベルトの意思を想像、模索しながらの演奏になるのでとても気を遣います。」とお話しになりました。このコンサートにおける2人の大作曲家の対比という観点でとても大切な選曲だったと理解しました。
「白鳥の歌」はシューベルトが亡くなった後に遺作をまとめたもので、歌曲集としての連続性は持っていません。表題は「死を目前にした白鳥はひときわ美しく歌う」というイソップ寓話に由来するとの事。14曲ある大曲ですが、最初の7曲がレルシュタープの詩、次の6曲はハイネの詩、最後の「鳩の使い」はザイドルの詩だそうですが、今回は出版時の順序ではなく、それぞれの詩人の中で意味を考え、並べ替えて演奏されました。例えば、かの有名なセレナーデは4番目から6番目に変更されました。仲道さんは、「シューベルトは最晩年の1年は病気に苦しんでいた、この曲の作曲中は死を意識していたはず。その状況を思うと、歌詞の中に多数出てくる“娘”という言葉は“死”と置き換えることが出来るのではないか。」とお話しされました。また、今回は日本語訳の字幕を投影しました。それは言葉の意味を理解することで、心情や情景などをふくらませ、シューベルトがこの詩を選んで作曲した心内、理由を想像しシューベルトの心境を感じていただきたかったからです。
仲道さんがお考えになったコンセプトが深すぎてここには書き切れませんが、公演終了後、「ベートーヴェン、シューベルト、シューマンが生きた同時代のドイツにはすぐれた詩人がいたからこそ、その言葉を音に乗せて優れた歌曲がたくさん生まれた。有名な作品以外も取り上げられる機会がもう少し増えると良い。」とお話しし、それに伴って勉強の必要性を痛感した一日となりました。
2025年01月25日(土)15:00開演
仲道郁代 言葉を奏でる vol.1 シューベルト「白鳥の歌」 ~加耒徹を迎えて
[出演者]
仲道郁代(ピアノ)
加耒徹(バリトン)
[プログラム]
F.シューベルト:音楽に寄せて D 547
F.シューベルト:「4つの即興曲」D 935より 第3番 変ロ長調 (ピアノ・ソロ)
L.v.ベートーヴェン:連作歌曲「遥かなる恋人に寄せて」 op.98
第1曲 丘の上に私は座って No.1 Auf dem Hügel sitz' ich spähend
第2曲 山々の青いところ No.2 Wo die Berge so blau
第3曲 空高く軽やかに舞う鳥 No.3 Leichte Segler in den Höhen
第4曲 空高くゆく雲 No.4 Diese Wolken in den Höhen
第5曲 5月がめぐってきて No.5 Es kehret der Maien
第6曲 お別れにこの歌を No.6 Nimm sie hin denn, diese Lieder
F.シューベルト:歌曲集「白鳥の歌」D 957
愛の使い Liebesbotschaft
兵士の予感 Kriegers Ahnung
春への憧れ Frühlingssehnsucht
はるかなる土地で In der Ferne
住処 Aufenthalt
セレナーデ Ständchen
別れ Abschied
漁師の娘 Das Fischermädchen
海辺にて Am Meer
彼女の肖像 Ihr Bild
街 Die Stadt
影法師 Der Doppelgänger
アトラス Der Atlas
鳩の使い Die Taubenpost