原支配人による公演レビュー

2021年11月18日 (木)
【原支配人による公演レビュー】
2021年10月29日(金) 渡辺玲子 プロデュース レクチャーコンサート vol.6 知る、聴く、喜び ~時代を彩る名曲とともに~ ブラームス晩年の交流~グリーグとドヴォルジャーク、そしてブラームス「最後のソナタ」

ジュリアード出身の正にインテリなお二人によるレクチャーコンサートは7年目を迎え、レクチャーコンサート第6回、昨年の延期公演が行われました。元々渡辺玲子さんが秋田の国際教養大学の特任教授になったのをきっかけに10年程前から秋田アトリオンホールで、若年層向け、青少年のための音楽教室というレクチャーコンサートを行なっていて、それを東京で大人向けに開催したいというところから端を発したのがこのシリーズです。
毎年コンサートが終わった後の打ち上げで翌年の方針を決めていくのですが、終了後の打ち合わせが、私は支配人というよりもむしろクラシック愛好家として玲子さんと江口さんと色んな会話が出来る事も含め個人的に楽しみな1日となるコンサートです。
昨年公演が延期となり、どういうコンセプトで決めたかが記憶がやや曖昧なところがあるのですが、ブラームス最後のヴァイオリン・ソナタを軸に…と話しをした記憶が蘇りました。
ブラームスは晩年創作活動を止めていましたが、リヒャルト•ミュールフェルトという天才クラリネット奏者との出会いでクラリネット・ソナタを2曲、クラリネットトリオ、クラリネットクインテットを創作した話は有名ですが、それをそのままヴィオラ・ソナタに書き換えて親友のヨアヒムがヴィオラで初演をやったという事です。この最晩年の名作をブラームス自身がヴァイオリン・ソナタに編曲しているという事実があり、殆ど演奏されない作品に焦点を当てようという事で軸を決めました。クラリネット・ソナタ、ヴィオラ・ソナタからの編曲で、ヴィオラの低弦C線のF、ファの音がヴァイオリンでは出ないので最初の跳躍する主旋律を原曲の1オクターヴ上げないといけない、またヴィオラの音色はヴァイオリンでは出せないので雰囲気が違う感じです。玲子さんに譜面を見せて頂きましたが、譜面上の最高音がE線の4thポジションの4指のEという事で、ハイポジションの利用が殆どないのが特徴、しかしクラリネット特有のアルペジオも多く、普通のヴァイオリン・ソナタとは全く違う方向の難易度でした。
前半はブラームスとの関わりがあった2人という事で、グリーグのソナタとドヴォルジャークの「4つのロマンティックな小品」を解説しながらの演奏でした。グリーグはブラームスの10歳下でメンデルスゾーンが開設したライプツィヒ音楽院に学んでいます。ドヴォルジャークはブラームスの支援を大変受けた方で、このレクチャーコンサートでも是非取り上げたい作曲家なのですが、ヴァイオリンのためのオリジナルピースが少ないのでここまで出せずにいました。
ヴァイオリン・ソナタだけだと限りもあり、選曲の難しさ、ストーリーを作る難しさで段々とハードルが上がって来ています。玲子さんと江口さんはリハーサルをしながら、曲構造の解釈や歴史、人間関係などを調べて解釈した事をこのシリーズでフィードバックして下さいますが、学術的根拠を探すよりも、彼らが主観として感じた事を表現して行こうという事でレクチャー内容も非常に面白いコンサートになりました。
いつも質問続出でお客様の興味も大きく上がるのが分かる恒例の質問コーナーですが、今年は時節柄、残念ながら行えませんでした。
来年秋もまた開催予定です。知的好奇心がそそられるコンサートですので、是非来年も観にいらしてください。

【渡辺玲子 プロデュース レクチャーコンサート vol.6 知る、聴く、喜び ~時代を彩る名曲とともに~ ブラームス晩年の交流~グリーグとドヴォルジャーク、そしてブラームス「最後のソナタ」】
2021.10.29 (金) 19:00開演

[出演]
渡辺玲子(ヴァイオリン)、江口玲(ピアノ)

[プログラム]
グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ短調 op.45
ドヴォルジャーク:4つのロマンティックな小品 op.75
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ へ短調 op.120-1