原支配人による公演レビュー

2021年09月30日 (木)
【原支配人による公演レビュー】
2021年9月10日(金) Hakuju サロン・コンサート vol.9 平井千絵 Mozart Speaks ~ 語りかけるフォルテピアノ ♪

数年前から某音楽事務所のお偉い方から、「原さんのホール、フォルテピアノ買いなよ。フォルテピアノの時代が近々来るから。」と言われていたのは頭に刺さっていました。それから数年後、一昨年の事だったと思いますがホールスタッフミーティングで平井千絵さんの名前が出て来ました。
今回、プログラムノートに平井さん直筆で〈ピアノの生い立ち〉という前段が書かれていましたが、ピアノの誕生は1700年頃にイタリア、メディチ家のお抱え発明家だったバルトロメオ・クリストフォリによる、“グラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ”(弱音も強音も出る大きいチェンバロの意味)これが“ピアノ・エ・フォルテ”を介して“ピアノ”となったそうです。
また、チェンバロの羽で弦を弾く仕組みから、ハンマーで弦を叩く事により音の強弱をつけられるようになったという画期的発明に、その後200年に渡り多くのピアノ製作者の手が加えられ、19世紀の終わり、ほぼ今日のピアノの原型が作られたという記載があり、正に現代の88鍵の立派なピアノの原型である61鍵の小さなピアノ、ピアノフォルテによる演奏会が当時の宮廷サロン音楽にも繋がるということでした。本シリーズ「Hakuju サロン・コンサート」は「かつてのコンサートは王族貴族の宮廷サロンコンサート。今音楽家が自宅サロンにお客様を招いたらどんなコンサートに?」というコンセプトですので、まさにぴったりの企画でした。
プログラムアイディアは当初2案あり、当時のピアノフォルテが出来た頃の音楽中心のもの、現代ピアノとの弾き比べというものでしたが、ハクジュホール主催初のピアノフォルテはこちらでしょう、という事で本日のプログラムになりました。
本公演も延期公演でしたので、1年という、とてつもなく長い期間を経てやっと本日!という気持ちでした。平井さんにお願いして楽器を前日に持ち込み、リハーサルをして頂き、平井さんにも楽器にもハクジュホールの音響に慣れて頂こう考えましたが、それが当日の演奏内容に活かされていたように思います。
曲目はモーツァルト中心の選曲に当然なりましたし、お客様が喜んでくださるように「きらきら星変奏曲」から始まり「トルコ行進曲付き」のピアノ・ソナタで終わるというものでしたが、前半にはドゥシェク作曲、「マリー・アントワネットの悲劇(フランス王妃の受難)」というマリー・アントワネットの庇護を受けて王妃の音楽の先生による、表現し難い題名の曲や、その時代の事を散りばめた楽曲が演奏されました。プログラムノートは全て平井さんご自身の解説となっていて、コンサートの中でも曲風やその楽曲へ向かう気持ち等を解説して下さいました。緊急事態宣言下、収容人数半数ではありましたが、素晴らしいクオリティの演奏に、お客様の満足度はとても高いコンサートになったと思います。
また初めて聴くピアノフォルテの音は非常に繊細で、61鍵のこのピアノでモーツァルトは作曲したのかと感慨深く、今の88鍵のフルコンサートサイズで聴くモーツァルトとは全く違う繊細でかつ61鍵の中ではスケールの大きな曲を堪能する事が出来ました。
フォルテッシモで打鍵するとチェンバロサウンドのように変化して聞こえたのも特徴でした。
1年延期したにもかかわらず緊急事態宣言中でしたが、素晴らしいコンサートになったと思いました。

【Hakuju サロン・コンサート vol.9 平井千絵 Mozart Speaks ~ 語りかけるフォルテピアノ ♪】
2021.9.10 (金) 19:00開演
[出演]
平井千絵(フォルテピアノ)

[プログラム]
モーツァルト :
「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」による12の変奏曲 K.265 (きらきら星変奏曲)
ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調 K.310

ドゥシェク : マリー・アントワネットの悲劇 op.23(フランス王妃の受難)

モーツァルト :グラスハーモニカのためのアダージョ ハ長調 K.356

ゲリネク : モーツァルトの歌劇「魔笛」より “恋人か女房か” の主題による6つの変奏曲

モーツァルト:
アダージョ ロ短調 K.540
グルックの歌劇「メッカ巡礼」による10の変奏曲 ト長調 K.455
ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331 「トルコ行進曲付き」

[アンコール]
モーツァルト:小さなジーグ ト長調 K.574