原支配人による公演レビュー

2022年12月18日 (日)
【原支配人による公演レビュー】2022年12月1日(木) 巡礼の旅 第4回 「詩情」 ~阪田知樹と辿るベートーヴェンとリストの軌跡

第3回の時に阪田さんとハクジュの長い歴史を書かせて頂きましたので今回は割愛させて頂きますが、コロナ禍で1年延びたので構想から4年、スタート予定から3年の「巡礼の旅」です。リスト編曲のベートーヴェン交響曲ツィクルスと、各回の交響曲に合わせたメッセージ性のあるリストの楽曲を前半に演奏するというコンセプトのこのシリーズは、第1回のチケットが完売し、回数を重ねる毎に評判が高まり、且つ阪田さんご自身の人気や注目度も赤丸急上昇で、前回の第3回は発売後1週間程で完売し、NHKのカメラも入りました。
ベートーヴェンの交響曲はいずれも人気ですが、人気や演奏頻度が比較的低いのは第1番、第2番、第4番ではないかと言われています。今回はそのマイナーな部類に入る第4番でしたが、第3番と同等かそれ以上の人気でチケットの先行販売は正に秒殺。これから第5番「運命」、第6番「田園」、第7番と続く中、プラチナチケット化してしまいました。SNSを通じて2公演開催してほしいというご意見をいただきありがたいですが、公演の性質上難しく、チケットが取れなかったお客様には申し訳ないとしか言えない状況です。「アーティストと考える」、「コンセプトを決める」、「ハクジュでしか出来ない事をやる」というのがハクジュホール主催公演の基本ですが、まだ全9回の半分に満たない段階でハクジュホールの歴史に残るシリーズになりました。
今回は「詩情」というテーマでしたので、前半は正にそのテーマに沿った曲の連続でした。いきなり「愛の夢」から始まり、次に「バラード 第2番」、「夜想曲『夢の中で』」、そして拍手なしで飛び込むように「詩的で宗教的な調べ」より 第3曲 “孤独の中の神の祝福”と続きました。“孤独の中の神の祝福”はリストが曲中に2箇所、間隔を開けるよう指示しているようで、4つに分かれているようにお客様には映ったかもしれませんが、それがより一層叙情的な旋律を際立たせ、徐々にお客様が引き込まれていくように感じました。メインの「交響曲 第4番」は駆け抜ける感じで、正にベートーヴェンという構築された形式と、第2楽章などのゆっくりとした旋律は前半と繋がるような感じがありました。前回までは超超難曲の連続で終演後の燃え尽き感が半端ではありませんでしたが、今回はアンコールでショパンの「マズルカ 第13番」を演奏され、余力が少しあったように感じました。
前回からはプレトークが18時45分から入っており、今回はプレトークの時点で300席中8割以上が埋まっている様子で、阪田さんより、「演奏機会の少ない“孤独の中の神の祝福”がリストの中で最も美しい旋律ではないか」というお話がありました。ちなみにリスト国際ピアノコンクールで優勝なさった阪田さんですが、「バラード 第2番」をお客様の前で弾くのは、意外にも今回が初めてだったそうです。また、ロベルト・シューマンがベートーヴェンの交響曲 第3番と第5番の間に挟まれている第4番を指し、「北欧神話の2人の巨人に挟まれたギリシアの乙女」と呼んだという話が印象に残りました。
いよいよ折り返し、次回の第5回は6月30日です。このシリーズで初めてリストの「巡礼の年」がプログラムに入ります。これからあと2年半もご一緒出来る幸せを噛み締めながら進んで行きたい、見守りたいと思います。
第3回の時も書きましたが、ホール関係者、業界の方が読まれましたら、ハクジュホールは前半にリストの作品を入れておりますが、ベートーヴェンのソナタとシンフォニーという組み合わせのコンサートをどこかで企画されたら良いのではと思います。阪田さんがせっかくベートーヴェンの交響曲を全て演奏なさるのに、ハクジュだけで終わるのは勿体無いです。

2022年12月1日(木) 巡礼の旅 第4回 「詩情」 ~阪田知樹と辿るベートーヴェンとリストの軌跡 19:00開演
[出演]
阪田知樹(ピアノ)
[プログラム]
F.リスト:愛の夢 ―3つの夜想曲 S.541/R.211 第3番 変イ長調
F.リスト:バラード 第2番 ロ短調 S.171/R.16
F.リスト:夜想曲 「夢の中で」 S.207/R.87
F.リスト:「詩的で宗教的な調べ」 S.173/R.14 より 第3曲 “孤独の中の神の祝福”
L.v.ベートーヴェン/F.リスト:交響曲 第4番 変ロ長調 S.464/R.128

[アンコール]
F.ショパン:マズルカ 第13番 イ短調 op.17-4

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