アーティストインタビュー

クラシック初心者もOK! 自分が感じたことが正解

廣津留すみれ
ハーバード大学とジュリアード音楽院を卒業後、ヴァイオリニスト、起業家、作家として多方面で活躍中の廣津留すみれさん。
7月26日、Hakuju Hallにて、異色の経歴を持つ廣津留すみれさんのリサイタル開催にあたり、ご本人に音楽への想いを語っていただきました。

クラシックの世界では、子どもの頃から私立の学校で英才教育を受けている方が多いなか、廣津留さんは、大分県の公立高校在学中に国際コンクールでグランプリを受賞されていますよね。公立高校に通いながら、そこまで夢中になれた理由はなんでしょうか?

廣津留

単純に、ヴァイオリンが好きだったんだと思います。3歳から始めて、気が付けば、「歯磨き、ご飯、ヴァイオリン」というくらい自然に自分の一部になっていたというか。ないと気持ち悪い、という感じです。

好きの力ってすごいですね!

廣津留

多分、「コンクールで1位をとりなさい!」と言われていたら嫌になっていたと思います。私の場合は、のびのびと大分の温泉につかりながら、ただ好きに弾いていただけだったのが、よかったのかもしれませんね。

ハーバード大学に進学され卒業された後、ジュリアード音楽院に行こうと思ったのはどうしてですか?

廣津留

ヴァイオリンは一生弾き続けたいとは思っていても、職業として弾く計画はありませんでした。ところが、大学3年生の時に、世界的チェリストのヨーヨー・マと共演したことで音楽の素晴らしさを実感し、音楽をツールとして、教育活動や慈善事業などいろいろなストーリーテリングに使えるのではないかと思ったんです。もうひとつは、ハーバードにはさまざまな分野でトップを走っている方がたくさんいて、そのなかで自分がヴァイオリンを弾けるというのはすごいことなのかもしれない、だったら自分の長所を伸ばすほうがいいな、と気づきました。

ハーバードとジュリアードに通われて、一番身についたものをあげるとすれば、なんでしょうか?

廣津留

どちらも社交性を大事にしていたので、コミュニケーション力はついたと思います。ハーバードは将来のリーダーを育てる学校なので学校主催のパーティが多かったですし、ジュリアードは演奏会後のレセプションで聴衆の方との交流の場がありました。演奏だけでなく、相手が何を求めているのか、どういう話をしたいのか、感じて答えているか、どうしたら伝わるかなどを見極める力は鍛えられましたね。

演奏家として、技術力だけでなく、コミュニケーション力も大事ですよね。そして、ジュリアードを卒業した後、アメリカでいきなり起業されたのですよね?

廣津留

はい。演奏活動のほか、ゲーム音楽の作曲を請け負ったり、音楽業界のマーケティング支援をしたりしています。今の時代、音楽家もセルフプロデュースは大切だと思います。

セルフプロデュース力があるかないかで、たしかに明暗が分かれますね。

廣津留

日本人は、もっと自分をアピールしていいと思います。それと、もっと生で音楽を聞く機会も作れたらいいですね。先日、教育ユーチューバーのイベントで、私が音楽の授業を担当してパフォーマンスをしたのですが、生音を聴いてくれた学生たちから「音楽を好きになりました」というお手紙をたくさんいただき、今まで音楽に触れてこなかった人たちにアプローチできる可能性を感じました。

そうした意味も含めて、今回のリサイタルでは、どういうメッセージを伝えたいですか?

廣津留

クラシックのコンサートは、初めての方にとってお堅いイメージがあると思うんです。たとえば、曲名や作曲家を知らなかったり、演奏の良さがわからなかったりすると楽しめないなど。でも、そんなことは、どうでもいいんです。どう感じるかは人に聞くものではなくて、自分のものだから。「あなたが感じたことが正解」です。だから、先入観のない白紙の状態で聴いてもらえたら嬉しいですね。

※株式会社白寿生科学研究所ユーザー情報誌「ヘルシーメイツ」2022年夏号から転載