アーティストインタビュー
吸収と放出の時間をバランスよく持つ
瀬﨑さんとの出会いは、約20年前。当時、僕は「アマデウス・ソサイエティー管弦楽団」というアマチュアオケの代表を務めていて、そのオケで、ブラームスの「二重協奏曲」を瀬﨑さんにお願いした経緯がありましたね。
あの頃は、私もフランス留学から帰ってきたばかりで、日本で何ができるんだろうと模索していた時期でした。ちょうど、指揮者の小林研一郎さん率いるプロ、アマチュアの垣根を越えた「コバケンとその仲間たちオーケストラ」でも活動を始めた頃だったので、音楽に熱心な方たちと交流することができて、ありがたかったです。
昨年、再び瀬﨑さんとご縁ができて、遅まきながらオファーさせていただくことができました。やはり、ホールを作る前から知っていた方にお願いできるのは、格別な想いがします。
嬉しいです。日本は地方を含め、大ホールは整備されていても室内楽に適したホールは限られています。そんな中で、優しく包み込むような響きを持つ温かい空間を提供されているハクジュホールは貴重だと思います。
ありがとうございます。今回どのような経緯で、ロシアのヴァイオリン音楽を選曲されたのでしょうか?
共演するピアニストのイリーナ・メジューエワさんは、日本に長く暮らしているロシアの方ですが、ロシアは西欧から見れば陸続きであるけれど、そこは東欧で、日本から見れば地理的に西欧より近い、どちらからも親近感がある国だと思います。今、世界では戦争が行われていますが、ロシアの作曲家の曲を日本でたくさん触れることで、人間のルーツというか、根本は繋がっていることを伝えられたらと思っています。
留学経験からも、そうしたことをより感じるのでしょうね。ところで、フランス留学の後、イタリアにも留学されたとか……。
ええ。帰国して7年くらい日本にいたのですが、その後、イタリアへ行きました。パリはさまざまな作曲家、演奏家が集まる歴史ある街で、ヨーロッパ全体を見渡すことはできたのですが、弦楽器が誕生した国であるイタリアに行ってみたいという思いがあり……。そんな時、イ・ムジチ合奏団の創始者で、ヴァイオリニストのフェリックス・アーヨ氏がご存命であると聞き、ぜひ直接学びたいと思い、日本とイタリアを往復する形で2回目の留学をしました。
イタリア留学では、どんなことを得られましたか?
クラシック音楽が何百年も歴史を育んできた環境の中で、言葉だったり、時代に影響された人間の心理などを体感できるのは、実際にその土地に行かなければわからないことでした。
今はSNSも発達しているのでいくらでも情報を得ることはできますが、実際にその環境で学んだり、作曲家のルーツを辿ったりして表現の裏にあるものを納得して演奏するのとでは、心に響くものも違うと思います。
実際、フランスやイタリアでは師匠のお父様がラヴェルのお友達だった、という話なども身近に聞いたりして、外国人の私にとってはありがたい環境でした。
コロナの時期は海外に行けなかったと思うのですが、どのように過ごされていましたか?
コロナを機に、普段できない読書をしたり、耳を休めたり、自然の中に行って自分が生かされていることを感じたりしていました。演奏活動はあちこち行けるので楽しいのですが、放出ばかりしていると途中でくたびれてしまうので、吸収の時間に充てていました。
自分にとって大切なことは何かを考えながら生きている瀬﨑さんの、深みある演奏を楽しみにしています。
演奏することも運動の一部だと思っていますが、ヴァイオリンを弾く姿勢をとると、どうしても上半身の動きが多くなるので、長い距離を歩いたりして下半身を動かすようにしています。また、同じ姿勢で体が固まるのを防ぐために、ストレッチも行います。
耳を使いすぎると疲労するので、瞑想を取り入れることも。あえて静かな時間を作ることはとても大事です。ヨーロッパなどに行った時は、休憩がてら教会に立ち寄り、ひんやりした空気感の中で、静かな時間を持つと、リセットされていきます。